前回、確実に儲かる方法(アービトラージ)は個人には閉ざされている、という話をした。
だが表の真ん中に、一つだけ「△」が残っていた。キャリーである。
今回はこれを調べる。結論から言うと、この連載で初めて「本物」と呼べるものが出てきた。
キャリーとは何か
【図1】fig10_1_concept.png

金利の安い通貨を売って、高い通貨を買う。それだけだ。
持っているだけで、毎日その差額が入ってくる。相場が上がるか下がるかは関係ない。FXをやっている人には「スワップポイント」という名前でおなじみのやつである。
俺も名前は知っていた。だが「そんな地味なもんで儲かるんかいな」と思って、まともに考えたことがなかった。
だが今回、クロちゃんに言われて考えが変わった。
「これは予想ではなく、実際に発生している現金の流れです。当てる必要がありません」
言われてみればそうだ。今まで俺がやってきたのは全部「次に上がるか下がるか」の勝負だった。キャリーだけが、その勝負をしていない。
金利差は、こんなに動いていた
まず、材料になる金利差そのものを見てみよう。
【図2】fig10_2_rates.png

黄色が米国、青が日本の政策金利である。日本はこの10年、ほぼゼロのまま張り付いている。一方の米国は、2022年から2023年にかけて一気に5.5%まで駆け上がった。
差(緑の点線)が、そのままもらえる金利になる。2021年までは1〜2%程度だったのが、2023年以降は4〜5%である。
……つまり、この検証をやるには、10年分の金利の歴史がまるごと必要ということだ。
ここで壁にぶつかった。
壁:過去のスワップは、どこにも無い
FX会社が出しているスワップの数字は、今日の分しか手に入らない。過去のスワップの記録は、どこにも保存されていないのだ。
つまり普通にやると、「今日の金利差が10年前もずっと続いていた」という、めちゃくちゃな前提でしか計算できない。図2を見れば分かる通り、それでは話にならない。
そこでクロちゃんが提案してきたのが、なかなか頭のおかしい方法だった。
「政策金利の歴史を全部集めて、当時のスワップを組み立て直しましょう」
やったのはこういうことだ。
- 8カ国の中央銀行が、いつ何%に金利を変えたかを10年分すべて洗い出す
- その日付をもとに、毎日の金利差を計算し直す
- 業者の取り分は、今日の金利差と今日のスワップの差から逆算する
要するに、存在しない過去のスワップ表を、公開情報から一から作り直したわけだ。えらい面倒な作業だが、これをやらないと何も分からない。
検証してみた
作戦は単純にした。
- 毎月1回だけ見直す
- 金利差がプラスになる方向のペアを、上位5つだけ持つ
- 値動きの荒いペアは枚数を減らす(荒さで揃える)
- 損切りは置かない(キャリーは持ち続けるのが仕事なので)
まずは業者の取り分をゼロにして計算した。つまり「金利差がまるごと手に入る世界」である。現実にはあり得ないが、エッジそのものが実在するのかを見るためだ。
結果:実在した
【図3】fig10_3_theory.png

9年半で+21.8%。勝ちと負けの比率(PF)は2.14。
数字だけ見れば派手ではない。年に2%ちょっとである。だがこの連載で、理屈通りにプラスが出たのは初めてだ。
- 逆張り(Wボトム):不合格
- 順張り(トレンドフォロー):不合格、コストゼロでも-44.5%
- YouTubeの手法2つ:どちらも不合格
- キャリー:プラス
しかも、当てにいっていない。ただ金利の高い方を持っていただけである。
ただし、乗り心地は最悪だった
グラフの2020年のところを見てほしい。ストンと落ちている。
これはコロナショックだ。世界中が一斉に「安全な円を買い戻す」動きに出て、キャリーの持ち高が根こそぎ巻き戻された。数年かけて貯めた金利を、数週間で吐き出している。
これがキャリーの正体である。普段はコツコツ、たまにドカン。そういう性格の戦略だ。
もう一つ。グラフの前半、2016年から2023年までの7年間はほぼ横ばいである。稼いだのはほとんど2023年以降、つまり米国の金利が上がってからだ。金利差が小さい時代には、キャリーはただの暇な作戦になる。
で、実際にやったらどうなるのか
ここまでは業者の取り分をゼロにした、あり得ない世界の話である。
現実には、スワップは業者を通してもらう。当然、そこには取り分がある。
同じ計算を、俺の口座の実際のスワップでやり直したらどうなったか。
その結果を見たとき、俺はしばらく画面を見つめてしまった。
次回、その話をする。
ではまた。
【付録】検証の詳しい仕様(追試したい方だけどうぞ)
- 対象:主要8通貨(米ドル・ユーロ・ポンド・円・スイスフラン・カナダドル・豪ドル・NZドル)の組み合わせ28ペアの日足
- 期間:2016年8月〜2025年12月(約9年半)
- 金利データ:各国中央銀行の政策金利の変更履歴を月次で再構成。日本は2024年3月のマイナス金利解除、2025年1月の0.5%への引き上げまで反映
- 業者の取り分(マークアップ)の推定:「今日の政策金利差」と「今日の実際のスワップを年率換算した値」の差を取り分とみなす。買い側・売り側で別々に算出
- リバランス:毎月最初の取引日
- 銘柄選び:買い方向・売り方向それぞれのネット金利差を計算し、プラスになる方向のうち上位5ペアを保有
- 枚数の決め方:各ポジションの1日の値動きが0.2%になるよう調整(レバレッジ上限10倍)
- 損切り:なし(月次の入れ替えのみ)
- コスト:入れ替え時に変更量×スプレッドを控除。スワップは水曜3倍
- 今回の結果:業者の取り分ゼロで +21.8% / PF 2.14 / 最大ドローダウン17.9% / プラスの年6/10
この検証の弱点(正直に)
- 政策金利の履歴は公開情報からの再構成であり、細かい誤差があり得る
- 業者の取り分が「今と同じ水準で10年間続いていた」と仮定している。これは検証不能な前提である
- 実際の運用では、金利差以外にスプレッドの拡大や約定のズレも起きる
【おことわり】この連載は個人の検証記録であり、投資助言ではありません。記事中の数字は2026年8月時点のバックテスト(過去データによる模擬計算)の結果であり、実際の運用成績とは異なります。スワップポイントは業者・時期により変動します。FXは元本を失うリスクのある取引です。


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