前回、業者を選べばキャリーのエッジが手元に残ることが分かった。9年半で+38.9%。この連載で初めて、まともな数字が出た。
だが、喜ぶ前に片付けておくべき問題がある。
なぜ、その業者は取り分をほぼゼロにしているのか。
慈善事業ではないはずだ。理由があるなら、その理由が無くなったときに条件も変わる。つまりこの蛇口は、いつか締まるかもしれない。
今回は、その話をする。
蛇口は3つある
調べてみたら、俺がもらっているお金の出どころは、3段階になっていた。
蛇口①:国と国の金利差(一番大きい)

青がアメリカの政策金利、赤が日本。その差(黄色)が、キャリーでもらえるお金の大元である。
見ての通り、2022年から一気に開いた。**5%を超えた時期もある。**キャリーが最近やたら効くのは、この蛇口が全開だったからだ。
そして右端を見てほしい。**すでに少し閉じ始めている。**アメリカが利下げし、日本が利上げしているからだ。この差が縮めば、どの業者を使おうがキャリーは痩せる。
これが本丸である。
蛇口②:業者どうしの客の取り合い
日本のFX業界では「うちはスワップが業界一です」を看板に客を集めている。だから取り分を削っている。
裏を返せば、競争が緩めば戻すということだ。ただし1社が締めても、他社が競争を続けている限りは移ればいい。
蛇口③:その業者の気分
一番起きやすいのがこれだ。だが一番対処が楽でもある。締まったら移るだけである。
締まったら、どうなるのか
「いつか締まる」で終わらせては意味がない。締まったらいくら減るのかを計算した。
国内業者の条件を基準に、取り分を年0.25%ずつ増やしていったらどうなるか。

意外だった。即死しない。
年2%も上乗せされて、ようやく+38.9%が+21.4%になる程度である。2%といえば、今の俺の口座とほぼ同じ水準だ。
なぜそんなに粘るのか。理由は棒の中の「件数」にある。21件 → 12件と、取引の回数自体が減っているのだ。
この戦略は「もらえる分がプラスのペアだけ持つ」というルールになっている。だから取り分が増えると、**割に合わないペアが自動的に候補から外れる。**残るのは金利差が特に大きいペアだけ。結果、儲けの効率は落ちないが、機会が減る。
言われてみれば当たり前で、大根が120円でしか売れなくなったら、100円の仕入れはやめて、80円で仕入れられる店だけ回るようになる。それだけの話である。
ただし良いことばかりではない。**プラスの年が7年から4年に減っている。**機会が減った分、当たり外れの年ムラは大きくなる。
本当に大事なのは、ここから
締まったときの被害額より、俺にとって重要だったのはこっちだった。
スワップは、毎日公表される。
これがどれだけありがたいことか、今までの検証を振り返ると分かる。
Wボトムのときも、トレンドフォローのときも、**エッジが消えたかどうかは事後にしか分からなかった。**数ヶ月負け続けて、「これは相場が悪いだけか、それとも作戦が死んだのか」と悩む。悩んでいる間も金は減る。気づいたときには手遅れというやつだ。
だがスワップは違う。
締まる日は、公式サイトに数字で出る。「今日から買いのスワップを150円から80円にします」と書いてある。それを見て、その日にやめればいい。逃げ遅れるという概念が無い。
消えるときに音を立てて消えてくれるエッジ。今まで検証した中で、こんなものは初めてだった。
だから、こういう運用になる
以上を踏まえると、この作戦は「仕掛けて放置」ではないと分かる。
**毎月の入れ替えのときに、スワップの一覧を見る。**取り分が広がっていたら縮小か撤退。政策金利のニュースも一応追う。それだけである。月に一度、10分もかからない。
**永久に効く魔法ではなく、蛇口が開いている間だけ水を汲む作業。**それがキャリーの正体だった。
本当に怖いのは、蛇口ではない
最後に、正直なことを書いておく。
俺が一番警戒すべきは、蛇口が締まることではない。蛇口は締まる前に見えるからだ。
怖いのは、前回書いたあの落ち込みである。年4%ずつ貯めたものを、数日で15%持っていかれる局面。あれは見えない。前触れもなく来る。
蛇口は見える。暴落は見えない。だから警戒すべきは後者だ、というのが今回の結論である。
……さて、これで検証はひととおり終わった。
逆張り、順張り、YouTubeの公開手法、アービトラージ、そしてキャリー。全部確かめた。
次回は最終回。第1回で書いた「65歳が限界や」という話に、戻ろうと思う。
ではまた。
【付録】検証の詳しい仕様(追試したい方だけどうぞ)
取り分を増やしたときの感応度
- 基準:前回の「国内の高スワップ業者」条件(16ペア、2016年8月〜2025年12月)
- やったこと:全ペアの買い方向・売り方向の取り分に、年0.25%〜2.0%を一律で上乗せ
- 戦略・銘柄・期間・その他の設定はすべて前回と同一
| 上乗せ | 総損益 | 勝ち負けの比率 | 取引 | プラス年 |
|---|---|---|---|---|
| なし | +38.9% | 4.82 | 21件 | 7/10 |
| +0.25% | +35.8% | 4.22 | 21件 | 7/10 |
| +0.5% | +34.3% | 3.66 | 22件 | 7/10 |
| +0.75% | +31.8% | 4.48 | 21件 | 7/10 |
| +1.0% | +29.0% | 3.98 | 22件 | 6/10 |
| +1.5% | +24.3% | 3.48 | 19件 | 6/10 |
| +2.0% | +21.4% | 4.47 | 12件 | 4/10 |
注意点
- ここでの上乗せは全ペアに一律である。実際の業者の取り分はペアごとにバラバラで、金利差の大きいペアほど厚く抜かれる傾向があった。バラつきのある抜かれ方の方が、成績への影響は大きい(第11回で見た通り、今の口座の条件では+3.4%まで落ちる)
- 政策金利のグラフは公開情報からの再構成であり、細かい誤差があり得る
- スワップは業者・時期により変動する。この検証はある1日の公表値を過去に当てはめた仮定計算である
【おことわり】この連載は個人の検証記録であり、投資助言ではありません。特定の業者を推奨・批判する意図はありません。記事中の数字は2026年8月時点で確認した公表値、およびそれを用いたバックテスト(過去データによる模擬計算)の結果であり、実際の運用成績とは異なります。FXは元本を失うリスクのある取引です。


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