前回の宣言通り、本命に手を出す。トレンドフォローである。
俺がやっていたWボトムは「下がりすぎたから買う」という逆張りだった。今回はその逆で、上がり始めたら買う、下がり始めたら売るという順張り。世界中の運用会社が何十年も使い続けている、由緒正しい作戦だ。しかも「効く理由」がはっきりしている。人間は流れに乗り遅れるクセがあるから、乗った者が取れる、という理屈らしい。
正直、これはいけると思った。
やり方は拍子抜けするほど単純
- 買う:終値が直近55日の最高値を超えたら
- 売る:終値が直近55日の最安値を割ったら
- 手仕舞い:買った後の最高値から、値動きの荒さ(ATR20)の3倍下がったら降りる。このラインは有利な方向にだけ動かす(下げない)
- 利確目標は置かない
最後の「利確しない」が逆張りとの決定的な違いだ。この作戦は大負けを何回もしながら、たまに来る特大の一発で全部取り返すという設計になっている。だから途中で利確したら意味がない。
検証の仕様
対象:主要8通貨(米ドル・ユーロ・ポンド・円・スイスフラン・カナダドル・豪ドル・NZドル)の組み合わせ27ペアの日足
期間:2016年7月〜2026年7月(約10年、1ペアあたり最大2,593本)
枚数の決め方:1回の損切りで失う額が、口座の0.5%ちょうどになるように毎回計算(固定ロットではない)
スプレッド:各ペアの日足に記録されている実測値の75パーセンタイルを使用
スワップ:各ペアの実際の値を、保有中は毎日加算(水曜日は3倍)
決済判定:窓を開けて飛んだ場合は、より不利な方の値で約定したものとして計算
同時保有:1ペアにつき1つまで
数え方:損益は「初期資金に対する%」で全ペアを合算。ドローダウンは含み損も含めて日次で評価
今回は、先に合格ラインを決めた
ここが前回までと一番違うところだ。
検証を始める前に、合格の条件を書き出して固定した。
- 勝ちの合計が負けの合計の1.15倍以上
- 年間でプラスの年が3分の2以上
- 最悪期の落ち込みが、平均的な年間利益の2倍以内
なんでわざわざ先に決めるのか。俺も最初は面倒くさいと思った。だが理由を聞いて納得した。
結果を見てから合格ラインを決めると、人間は必ず甘くする。 「まあ、この数字なら及第点かな」と、無意識に自分に都合よく線を引いてしまう。ユーロドルの+219pipsで舞い上がった俺が、まさにそれだ。
だから答えを見る前に線を引いて、あとから動かさない。 学校のテストと同じで、採点基準を先に決めておくわけだ。これも「確かめ方」の一部である。
結果発表
| 項目 | 結果 | 合格ライン |
|---|---|---|
| 取引回数 | 1,194回 | ― |
| 勝率 | 32.9% | ― |
| 勝ち負けの比率 | 0.74 | 1.15以上 |
| プラスの年 | 11年中3年 | 3分の2以上 |
| 総損益 | マイナス58.3% | ― |
| 最悪期の落ち込み | 69.4% | ― |
全部不合格。
しかも中身がひどい。10年で資金の6割近くが溶け、一番悪いときには7割近くの含み損を抱えている。これは実際にやっていたら、精神が先に死ぬ数字だ。
なんでやねん。世界中のプロが使ってる作戦とちゃうんか。
言い訳を潰す、2つの追試
ここで前回までの俺なら「パラメータが悪かったんちゃうか」と言い出すところだ。だが今回はそれも先回りして潰した。
追試①:設定を総当たりで試す
ブレイクアウトの日数を20日・40日・55日・70日・100日の5通り、手仕舞い幅をATRの2.0倍・2.5倍・3.0倍・3.5倍・4.0倍の5通り。掛け合わせて25通りを全部回した。
結果は、25通り全部マイナス。一番マシなもので-48.7%、一番ひどいもので-116.8%。「たまたま設定が悪かった」の逃げ道は消えた。
追試②:コストを全部ゼロにしてみる
これが決定的だった。スプレッドもスワップも全部ゼロという、あり得ない好条件で計算し直した。手数料を一円も払わない世界である。
| 条件 | 総損益 |
|---|---|
| 実際のコスト込み | -58.3% |
| スワップだけゼロ | -47.7% |
| スプレッドだけゼロ | -55.2% |
| 全部ゼロ(あり得ない好条件) | -44.5% |
結果はマイナス44.5%。コストが説明できるのは、負けのうち4分の1程度でしかなかった。
つまり、この負けは業者に取られたからではない。作戦そのものが、この10年のFXでは通用しなかったということだ。コストが原因なら改善の余地があるが、そうではなかった。
なぜダメだったのか
調べてみて分かったことがある。
プロのトレンドフォローが機能するのは、通貨だけでなく、金・原油・穀物・株価指数・債券まで50も60も並べているからだった。毎年どこかの市場には大きな流れが来る。だから全体では拾える。
ところが俺の口座で扱えるのは通貨だけだ。しかも27ペアといっても、元をたどれば8つの通貨の組み合わせにすぎない。同じ8人でチームを組み替えているようなもので、分散になっていない。
前回学んだ「性格の違う作戦を並べる」が、そもそもできない環境だったのだ。
それでも、収穫はあった
2つ、大事なものが手に入った。
1つ目。「手法が悪い」ではなく「この環境では無理」と切り分けられた。 これは確かめ方を持っていたから言えることだ。もし雰囲気でやっていたら、「トレンドフォローは使えん」と誤解して終わっていた。実際には作戦の問題ではなく、道具箱の中身の問題だった。
2つ目。先に線を引いておいたので、自分に言い訳ができなかった。 不合格は不合格。基準を後から緩めて「まあ悪くない」と言い張る余地を、自分で塞いでおいた。
これが確かめ方を持つということらしい。手法は次から次へと現れるが、確かめ方は一つ持てば全部に使える。
さて、逆張りも順張りも沈んだ。個人が触れる作戦は、これでほぼ出尽くした感がある。
……のだが、まだ一つだけ残っていた。しかも今度は、理屈の上では確実に儲かるはずのやつが。
その話は、次の次にする。先に一つ、寄り道をさせてほしい。
こういう物差しを持ってしまうと、どうしても確かめたくなるものがある。世の中に山ほどある「勝てる手法を公開します」という動画だ。あれをこの物差しで測ったら、どうなるのか。
気になって仕方がなかったので、やってみた。次回はその話をする。
ではまた。
【おことわり】この連載は個人の検証記録であり、投資助言ではありません。記事中の数字は2026年7月時点のバックテスト(過去データによる模擬計算)の結果であり、実際の運用成績とは異なります。FXは元本を失うリスクのある取引です。


コメント