ウォークフォワード検証を覚えてから、俺の中で変わったことがある。「勝てる手法を公開します」という動画を見ても、以前のように前のめりにならなくなった。代わりに、こう思うようになった。
「ほな、確かめたろやないか。」
というわけで、無料で公開されている手法を2つ、本気で検証してみた。どちらもゴールド(金)を扱った、視聴回数の多い動画である。
なお、これは批判ではない。知りたかったのは「公開されているルール通りにやったら、どうなるか」の一点だけだ。だから動画名やチャンネル名は伏せる。
まず、この一枚を見てほしい
2つの手法の運命は、実はこの図でほぼ決まっていた。
【図1】fig1_winrate.png

灰色が「トントンになるために必要な勝率」。金色が「実際の勝率」である。
手法Aは、勝つのに68.7%が必要だった。3回に2回以上、当て続けなければマイナスになる設計である。
手法Bは、33.8%でよかった。3回に1回でいい。
なぜこんな差が出るのか。理由は決済のルールにある。
- 手法A:利確30、損切60。負けたら60取られて、勝っても30しかもらえない
- 手法B:利確は損切りの2倍。負けたら1、勝ったら2
手法Aの一覧を見たとき、俺はここで手が止まった。普通は逆やろ? と。
必要な勝率の計算も難しくない。10回やって、勝ちがW回だとすると、もらえるのが30×W、取られるのが60×(10-W)。これが釣り合うのは66.7%。手数料を足して68.7%である。
手法A:1分足で細かく取るやつ
ルール(動画そのまま)
① 1時間足がトレンド相場のときだけ取引する(レンジ相場は見送り)
② 1分足の値幅で、3段階に分ける
| 分類 | 1分足の平均的な値幅 | 対応 |
|---|---|---|
| 小相場(7割の時間) | 10〜20pips | 取引しない |
| 通常相場(2割) | 20〜30pips | ストキャスを使う |
| 大相場(1割) | 50pips超 | EMA6を使う |
③ 直近の安値から上がりすぎていたら見送る(通常500pips、大相場1500pips)
④ 決済は、利確30pips / 損切60pips
結果:勝率は足りていた。だが。
3年分・3,501回で回した結果、勝率は71.1%。必要な68.7%を上回っている。
ところが、月ごとに並べてみたら、こうなった。
【図2】fig3_goscal_monthly.png

稼いだのは、右端の9ヶ月だけである。それ以前の2年間は、ほとんど動かないか、負けていた。
理由は分かった。この手法は「1分足の値幅が20pips以上」といった固定の数字で参戦を決める。ところが金の値段は2年前と今とで倍以上違うので、値幅も全く違う。つまりこの設定は、今の激しい金相場に合わせて作られているわけだ。
そして動画が公開されたのは、この絶好調な9ヶ月の直後だった。
手法B:4時間足でゆったり待つやつ
ルール(図で見た方が早い)
【図3】fig2_pinbar_rule.png

長い上ヒゲの足が出て、次に陰線が来て、その陰線が前の足の実体を割り込んだら売る。損切りはヒゲの上、利確は損切り幅の2倍。
こちらはまっとうな設計である。必要勝率34%は現実的だ。正直、期待した。
結果:必要勝率は超えた。それでも不合格
10年分・226回で回した。勝率35.4%で、必要な33.8%を上回っている。総損益もプラス。
だが、中身を割ってみたら決着がついた。
【図4】fig4_pinbar_side.png

買いだけが勝って、売りは負けている。そして8年間はマイナスで、プラスになったのは直近2年半だけだった。
金がひたすら上がった時期に、買いが当たっただけである。上げ相場で買えば勝つ。それは手法の優位性とは言わない。
「1.6ポイント上回った」は、上回ったうちに入らない
勝率35.4%は、必要な33.8%を1.6ポイント上回っている。だがこれは喜べる数字ではないと言われた。
226回程度だと、勝率は運だけで±3.2ポイントくらい上下する。つまり1.6ポイントの差は、ブレ幅の半分でしかない。
コインを226回投げて表が35.4%出たとして、「このコインは表が出やすい」とは言えないのと同じである。
2つの失敗は、質が違った
手法Aは、算数の問題だった。利確30:損切60で勝率68.7%を要求する時点で、腕の話ではない。
手法Bは、設計はまともだった。必要勝率34%は現実的だし、条件の数字を16通りに振っても13通りでプラスと、しぶとさもある。骨格は使える。足りなかったのは優位性の大きさだけだ。
つまり、Bの方がずっと惜しい。
両方に共通していたこと
どちらの動画にも、視聴者を次に連れて行く導線があった。片方は無料メルマガ、片方は海外業者の口座紹介である。
これ自体は普通のことだ。動画を作るのはタダではない。
ただ、口座紹介の報酬は紹介された人が取引するほど紹介者に入る仕組みが多い。そして手法Aの動画の締めくくりは、こういう言葉だった。
「勝ててない人は、とりあえず手法通り淡々とエントリーしてみてね」
悪意があるとは思わない。だが「とりあえず取引せよ」と言う人に、取引量に応じて報酬が入るという構造は、頭の隅に置いておいていい。
俺が持ち帰ったもの
繰り返すが、これは「あの手法はダメだ」という話ではない。俺が検証したのは機械にできる範囲に置き換えた骨格であって、その人の裁量が効いている可能性は否定できない。
持ち帰ったのは、もっと単純なことだ。
動画を見て「これは本物か?」と悩む必要が、もう無くなった。
悩む代わりに、ルールを書き出して、数字に置き換えて、合格ラインを先に決めて、過去のデータで回す。悩んでいた時間が、作業に変わった。
聖杯は相変わらず見つかっていない。だが、聖杯かどうかを確かめる物差しは手に入った。今のところ、これが一番の収穫である。
次回は本編に戻る。逆張りも順張りも沈んだあとに、まだ一つだけ残っていた作戦の話だ。今度のやつは、今までと決定的に違う点がある。理屈の上では、確実に儲かるはずなのだ。
ではまた。
【付録】検証の詳しい仕様(追試したい方だけどうぞ)
手法A
- 対象:XAUUSD 1分足
- 期間①:2026年4月8日〜7月20日(99,858本 / 800回)
- 期間②:2023年7月〜2026年7月(1,124,640本 / 3,501回)
- 機械化した部分:値幅による3段階の分類、上がりすぎの判定、ストキャス、EMA6、大きい足の除外、TP30/SL60
- 機械化できなかった部分:「1時間足のトレンド判定」→終値と移動平均の位置関係で代用。「スラスト(急騰急落)」→終値の10本変化が平均値幅の2倍以上と定義
- コスト:バー記録の実測スプレッド75パーセンタイル+往復手数料0.4pips
- 合格ライン(検証前に決定):①勝ち負けの比率1.15以上 ②勝率68.7%以上 ③プラスの月が3分の2以上
- 結果:①1.14 ②71.1% ③14/34ヶ月 → 不合格
手法B
- 対象:XAUUSD 4時間足
- 期間:2016年8月5日〜2026年8月4日(6,595本 / 226回)
- 「ヒゲが長い」の定義:ヒゲ ≧ 実体×4倍、かつヒゲが足全体の50%以上
- 「コマ足NG」の定義:実体が足全体の5%以上
- エントリー:条件を満たした足の次の足の始値(未来の値を使わないため)
- 損切り:足Aの高値(売り)/安値(買い)。利確:損切り幅の2倍
- コスト:実測スプレッド$0.08+往復手数料$0.08=$0.16/オンス
- 採用しなかった裁量部分:「近くに直近高値があればそちらを損切りに」「環境認識を見て利確」
- 数え方:損切り1回分を1Rとして計算(勝ちは必ず+2R、負けは-1R)
- 合格ライン(検証前に決定):①勝ち負けの比率1.15以上 ②勝率が損益分岐超え ③プラスの年が3分の2以上
- 結果:①1.07 ②35.4%(分岐33.8%) ③5/11年 → 不合格
- 頑健性:ヒゲ倍率3〜6倍 × 利確1.5〜3倍の16通り中、13通りがプラス
【おことわり】この連載は個人の検証記録であり、投資助言ではありません。検証したのは公開されたルールを機械化した近似であり、元の手法そのものの成績を証明・否定するものではありません。記事中の数字は2026年8月時点のバックテスト(過去データによる模擬計算)の結果です。FXは元本を失うリスクのある取引です。


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